告訴を受理させる50の方法 4(完)

このテーマは今回で最後です。読んでくださっている方は、告訴状を警察に受理させる実践的テクニックが50個でてくると期待されているかも知れませんけど、すみませんがそういうことではありません。


お気づきの方も多いと思いますが、今回のタイトルは、ポール・サイモンの「恋人と別れる50の方法」のパクリです。

弁護士になって間もない30歳前後のころでしたが、当時の私は非常にモテていて、多くの女性が寄りついてくるのが大変わずらわしく、どうすれば女性が離れていってくれるだろうかと悩んでいました(ここは冗談半分で読んでくださいね)。

それでポール・サイモンのCDを買ってきて、「恋人と別れる50の方法」を参考にしようと思い、歌詞を訳して見ました。しかし内容は、

裏口(back)から逃げなさい、ジャック、

新しい計画(plan)を作りなさい、スタン、

鍵(key)は捨ててしまいなさい、リー、

などと、韻を踏んで抽象的な言葉が並んでいるだけで、恋人と別れる実際の方法など触れられていませんでした。それでもポール・サイモンが虚偽広告で訴えられたという話も聞かないので、私もこのタイトルをパクらせていただくことにしました。

 

と、冗談はさておき、これまで書いてきたとおり、告訴というのは決して手軽で便利な制度でないということは、お分かりいただけたと思います。それでも、問題解決のためどうしても告訴という手段を取りたい方のために、50とまでは行きませんが「5の方法」をまとめてみます。

1 証拠をきちんと集める。

2 民事事件としてできることにまず手を尽くす。

3 相当の手間と時間がかかることを覚悟する。

 これは前回のポイントとして書いたとおりです。

 

4 弁護士に依頼して告訴状を作成する。

告訴状の作成代行みたいな商売があるようですが、私はお勧めしません。

弁護士は司法修習の際に、起訴状や判決文の書き方の教育を受け、捜査や裁判の現場も見ているので、どうすれば警察や検察が動いてくれるのか、わかっています。告訴状の紙切れ一枚だけで警察が動くことはまずありません。その後のフォローを適切にできるのは、弁護士だけなのです。

5 刑事裁判で重要証人となることを覚悟する。

もし容疑者が容疑を「否認」すれば、法廷で証言しなければいけなくなる可能性もあります。また、相手が不当な告訴だということで、逆に「虚偽告訴罪」で告訴してくるという可能性もなくはないので、弁護士と相談して、よくよく慎重にすべきです。

 

告訴について長々と書いてしまいましたが、取りあえず以上で終わりです。

告訴を受理させる50の方法 2

前回の続き。民事事件として解決すべきような事柄で告訴状を出しても警察はまず動かない、という話をしていますが、私の経験の中で、実際に警察が動いた数少ない事例を紹介します。

依頼者の明子さん(仮名)は若い女性で、仕事を通じて正夫(仮名)という同じ年ごろの男性と懇意になった。付き合っていく中で、正夫からは将来結婚しようという話も出ていた。そしていつごろからか、正夫は明子さんに「お金を貸して欲しい」と頼むようになり、明子さんは自分の預金から何万、何十万と貸すようになった。

正夫の要求は次第にエスカレートして、1回で何百万を借りることもあり、最終的に明子さんは合計で約1000万円を正夫に貸した。正夫は「必ず返す」と言いつつ1円も返さず、そのうち連絡が取れなくなった。

私はまず、貸した金を返せという民事裁判を起こしました。幸い、明子さんが正夫の実家を知っていたので、訴状を送りつけることができました。

それに対して正夫は、弁護士を通じて、「個人再生の申立て」をしてきました。つまり、お金を返せないから負債をカットしてください、という手続きです。いま武富士が会社更生法のもとで会社再建を目指していますが、その個人版みたいなものです。

しかし、裁判所は正夫の申立てを却下しました。正夫の負債の大半は明子さんからの借金であり、明子さんからの借金を踏み倒すためだけに個人再生手続きを利用することは認めない、ということです。そして、正夫に対して1000万円の返済を命じる判決が出ました。

それでも正夫はお金を返してこないので、私が正夫の勤務先をつきとめ(個人再生手続きの資料を閲覧して、勤務先が判明した)、給料の一部を差し押さえました。しかし、差し押えた給料から取り立てができたのは1か月分だけで、正夫はその後すぐ、会社を辞めてしまいました。そうなれば給料の取立てもできません。

さすがに私も、この正夫の対応があまりにひどいと思い、明子さんの了承も得て、詐欺罪で警察署に告訴しました。返すと言いつつ、1円も返さず繰り返し借入れをしているんだから、本当は返すつもりもなく借りていたはずだ、という理屈です。

私と明子さんで、3回ほど、所轄の警察署に事情を話しに行ったり、証拠書類を持っていったりしました。そして担当の警察官が「わかりました。告訴を受理させてもらいます」と言いました。

その後、明子さん単独で、何度も警察署に呼び出されたはずです。明子さんは被害者であって最も重要な証人ですから、たびたび事情聴取を受ける必要があるからです。

このようにして、あとは警察に任せたような形になって約1年が経ち、私がこの事件を忘れかかったころ、明子さんから私の事務所に電話がありました。

「正夫くんが警察に逮捕された」という連絡でした。

何だかドラマ仕立てになってきましたが、このあたりで「次回に続く」とさせていただきます。