袴田事件 再審決定に思ったこと 2

袴田さんは、警察の取調べを受けている段階で、無実であるのに「自白した」とされています(もちろんこれは弁護側の主張です。検察側は今も袴田さんが真犯人と言っています。その点は、今後の再審の中で明らかにされるのでしょう)。

 

警察署の留置場に留め置かれ、連日、刑事の取調べを受けている、それは過酷な状況であるのは分かるとしても、袴田さんは元プロボクサーで、心も体もずいぶんタフな人だったはずです。そんな人でもウソの自白をしてしまうものなのか。

これはいくら議論しても実感できるものではないので、乏しいながら私の見聞を書きます。

 

私は実際に、警察署の取調室に入ったことがあります。いや容疑者としてではありません。

被害者側の代理人として、告訴状を出したり、被害相談をしたりすることがあるのですが、そういうときは、署内の会議室とか食堂の片隅で話を聞いてもらうことが多いです。

あるとき、食堂も会議室も使用中だったのか、刑事課の奥の小部屋に入れられたことがあります。

これが取調室か、と思いました。畳2枚分くらいの、コンクリートの狭い部屋で、かなりの圧迫感でした。ここにずっといたら、確かに精神の平衡を失うかも知れないと思いました。

 

もう一つ、これは私の経験ではなく聞いた話です。

私が司法修習生だったころ、大阪地検に配属されて、容疑者の取調べをしたことがあります。これは検察の仕事を学ぶために、司法修習生が皆やることです。

私と同期だったある司法修習生は、指導役の検事から「容疑者にちゃんと罪を認めさせて、反省していると供述をとって、それを調書に残せたら、あとは不起訴で釈放しよう」という方針を伝えられていたのですが、容疑者が意地を張っているのか、なかなか自供しない。

その司法修習生は困ってしまい、その容疑者を護送してきた刑事に、どうしたものかと相談しました。

するとその刑事が言った言葉は「わかりました。型にハメて来ますわー」。

そして刑事は容疑者を警察署に連れて帰りました。

数日後、再びその刑事に連れられて検察庁に現れた容疑者は、司法修習生に対し、「すんません、私がやりました、すんません!」と、恐縮しきりで自白したそうです。

 

聞いた話なので多少の誇張が混じっているかも知れないのですが、司法修習生が同僚の司法修習生にわざわざウソの話をする理由もないので、たぶん実話なのだと思います。

袴田さんも、具体的に何をされたかは知りませんが、こうして「型にハメられた」のだろうと想像しています。

続く。