相談者 田中良翁 2回目のご相談
田中「今日は父親の通帳を持ってきました」
山内「なるほど、八尾信用金庫に約3000万円の預金があるのですね」
田中「不動産については何かわかりましたか」
山内「はい、あなたが住んでおられる東大阪の土地は、登記簿によると、名義が田中亀六さんになっていました」
田中「ああ、死んだ親父の名義ですね」
山内「1つの土地の上に、建物が2つあるようですね。『付属建物』が存在すると登記されていますが、何かわかりますか」
田中「ええ、母屋と離れがあるんです。母屋には、私と妻と息子2人がいて、親父と同居してました。弟のトキは独身で、離れで一人で住んでます」
山内「固定資産評価証明書によると、土地の価格は約2000万円ですね。建物は古いので、評価額はゼロに近いです」
田中「そうすると、一体どういうことになりますか」
山内「亀六さんの遺産は、預金3000万円、不動産2000万円の、合計5000万円です。これを3人で分けることになります」
田中「どう分けるのが良いでしょうか」
山内「典型的には、あなたが母屋を取り、トキさんが離れを取る。カイオウさんにはお金を分けてあげることが考えられます。亀六さん名義の土地は、2つに区切って、それぞれ、あなたとトキさんの名義に変えるのが良いでしょう」
田中「土地を二つに分けるんですか」
山内「はい、分筆(ぶんぴつ)と言います。土地家屋調査士さんに測量してもらって、それぞれの敷地の間に境界線を引いて、杭を打っておくんです」
田中「クイ…ですか?」
山内「杭といっても大げさなものでなくて、境界線の起点に金属の鋲を目立たない形で打つだけです」
田中「なるほど。で、兄や弟は何か言ってきましたか」
山内「はい、それなんですが、トキさんからは協議に応じると、文書での返答がありました。カイオウさんは、働いておられる民宿にあてて文書を送ったのですが、今のところ返答はありません」
田中「返答がないなら、兄を無視して手続きを進めることはできませんか」
山内「いえ、それはできないですよ。現時点では、東大阪の不動産は、相続人全員で3分の1ずつ共有している状態になっています。これをあなた一人の名義に登記するためには、相続人全員が遺産分割協議書に実印を押す必要があるんです」
田中「面倒なことになるのなら、私はその共有とかいう状態で構いませんが。私ら一家も、弟も、今のまま住めるんでしょ?」
山内「確かにそうですが、あとで問題になることは多いです。もしカイオウさんが帰ってきて、俺も共有者だから住まわせろと言ってきたら、断れませんよ。それに、もしあなたやカイオウさんが亡くなったら、それぞれの奥さんやお子さんが共有権を相続しますから、トラブルの種を次の世代に残すことになります」
田中「そうかあ…。兄も淡路島で隠し子がいるとか、ウワサで聞いてましてね。じゃあウチの妻や息子とその隠し子が…」
山内「そうです。東大阪の不動産をめぐって争うことになりかねない。トキさんだって結婚して子供ができれば、将来的に相続人はもっと増えます。兄弟の多い家庭で相続問題をほうっておいたために、相続人が何十人にもなって収拾つかなくなることだって、よくあるんですよ」
田中「それはちょっと困りますね。と言っても、兄が話し合いに応じてこなければ、遺産分割協議はどうなるんでしょうか」
山内「考えられる方法としては、家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てて、裁判所から呼出状を出してもらうことですね。調停が成立すれば、遺産分割協議書を作らなくてもよくなります」
田中「そうですか。わかりました。それでは、その調停というものに取りかかってください」
山内「わかりました。家庭裁判所での調停期日が決まりましたら連絡いたします」
続く 相続相談3