今回の尖閣問題についての備忘録

中国がまたも尖閣諸島に不法侵入しました。たかが一弁護士のブログで政治的なことを論じるのも詮ないことですので、あくまで法律解釈の観点から、私の感じた疑問を述べたいと思います。

 

中国人らは、入国管理法違反の容疑で警察に逮捕されましたが、早くも彼らは、強制送還されるらしい。この素早さは何かと言うと、刑事訴訟法で、逮捕による身柄拘束は48時間まで、と限られていることによります。

しかし、通常は、逮捕されたら警察から検察に事件が送致されると、これも刑事訴訟法で決まっています。警察サイドで事件を終わらせて良いのは、「微罪処分」といって、たとえば本屋で雑誌を万引きして警察でお叱りを受けて帰された、というようなケースに限られます。

本屋の万引きも立派な犯罪ですが、集団的・計画的かつ強行的な不法入国を、これと同視するのは明らかに疑問です。ここに政治的意図が働いたとしか考えられません。

 

2年前にも同じように中国人船長が同じようなことをして逮捕されたことを、誰しもご記憶であると思います。このときは、逮捕のあと検察に送致され、勾留という身柄拘束がされたあと、刑事裁判が始まるかと思っていたら、しばらくして「釈放」されました。(当時のブログ記事はこちら

これも政治的介入があったとしか思えない不可解な幕切れでしたが、仙谷官房長官(当時)が、「地検の判断を尊重する」と、地方の役人にその判断の責任を押し付けました。

 

今回はなぜ、事件を検察に送らないかというと、2年前のときのように、船で意図的に体当たりしてきたような攻撃がなかったので、公務執行妨害などの刑法上の犯罪にあたらず、刑事裁判で裁けない、ということのようです。だから不法入国のみが問題となり、それは入国管理局という役所の所管となり、行政処分として強制送還されることになる、ということだそうです。

 

しかし、今回の中国船も、海上保安庁の巡視船に対し、レンガなどを投げつけていたと報道されています。船体を少しキズつけた程度で、人に当たってケガをさせていたわけでないようですが、それは立派な「暴行」です。

刑法の教科書では、公務執行妨害とは、暴行や脅迫で公務員の公務を妨害することを言い、この場合の暴行とは広い意味を指すと言われます。

その定義についてはいちいち触れません。しかし私が経験した少年事件の中で、ある少年が、白バイの30メートルほど手前で「通せんぼ」しただけで公務執行妨害罪で逮捕されたというケースがあります。この少年のやったことはタチが悪いけど、これが暴行と言えるのかと、私は少年審判で争いましたが、家庭裁判所は「暴行」に当たると認定しました。

公務執行妨害罪というのはそれくらいに広く成立するのです。海上保安庁の船にレンガをぶつけて罪にならないというのは、解釈として明らかにおかしい。

今回、事件を地検に送致させずに、無理やりな解釈をしてまで、警察と行政レベルで話を終わらせようとしたのは、2年前に那覇地検に泥をかぶせて事件を幕引きしたことへの政治的配慮かも知れません。

 

もっとも、過去にも尖閣諸島に不法入国して、裁判にならずに強制送還したケースは、自民党政権下の小泉内閣のときにその例があるようです。野田総理としても、その前例にならったのだ、というのでしょう。

ただ、小泉内閣のときにそのことが今ほど問題にならなかったのは、それ以上に諸外国に日本周辺をおびやかされていなかったからでしょう。小泉元総理は、在任中は「アメリカの言いなり」「日本をアメリカの属国にするのか」などと言われていました。小泉元総理がやろうとした「構造改革」は、私としてもどう評価してよいのか未だに迷うところがありますが、外交に関しては、問題が大きくならないよう、シメるべきところはきっちりシメていたのでしょう。

 

以上、長文かつまとまりのないままですみませんが、備忘録を兼ねた問題の整理ということでご了承ください。