八百長裁判は間違っていたのか

大相撲の八百長問題がふたたび世間をにぎわせています。



以前、「週刊現代」の八百長報道に対し、裁判所が出版元の講談社に対し、相撲協会への4000万円超の賠償を命じました。今や講談社側は「それ見たことか」と思っているはずで、実際、相撲協会に対して逆に賠償を求める動きもあると、ネットニュースで見ました。

では、講談社に賠償を命じた判決は間違っていたのか、ということについて触れます。

まず、他人の名誉を害するようなことを言ったり書いたりすると、名誉毀損となり、刑法上も犯罪になるし、民事上も賠償問題になる。その事柄が、真実かウソかは、ひとまず問題ではない。

これまで世間は、大相撲に八百長はないと信じていたわけです。「昔から八百長は当然行われていた」と、知ったふうなことを言う人がいますが、少なくとも大半の人はそう信じていなかったからこそ、相撲の試合を熱心に観戦してきたのです。
そういう状況下で「大相撲は八百長だ」と公言すると、これは名誉毀損となると言ってよいでしょう。

ただ、報道する側にも、表現の自由、報道の自由があるし、むしろ、世の中に不正義があるのなら、それを暴くという役割も期待されている。

そこで、その報道内容が、①公共的なことがらであり、②公益を目的とした報道であり、かつ、③真実と認めることが相当だ、と思われることであれば、相手の名誉よりも報道の自由のほうを表現し、法的責任を問わないこととされています。

細かい議論は省きますが、相撲協会は公益を目的とした財団法人であり、そのため税金が安いなどの特権を得ていますので、①と②は認めてよい。

③は、きちんと調査して、相当な証拠や根拠も揃っていて、「そこまでの資料があるのなら、週刊誌側が八百長の存在を信じたとしても当然だろう」といえる状態だったのなら、その要件を満たします。

今回、八百長のやり口を具体的に相談するようなメールのやり取りの存在が、警視庁によって明らかにされました。これは、野球賭博の捜査のために力士から押収した携帯電話を調べて得た証拠のようです。
(警察が、野球賭博の捜査とは関係のない八百長の資料まで大っぴらにする権限があるのか、という点は疑問ですが、それはいずれ検討するとします)

出版社には、さすがにそこまで調べるほどの能力も権限もなく、ここまで決定的な証拠はない状態で、八百長報道をしたわけです。

もちろん、関係者からの聴き取りや裏付けなど、それなりの取材はしたでしょう。しかし、個人のブログとかではなく、大量の発行部数と読者を持つ週刊誌が報
道する以上は、相当に強力な根拠を持つことが求められるというべきで、例えば「有力な情報筋から聞いた」というだけでは、「八百長の存在を信じたとしても
当然だ」とまでは言えないでしょう。

講談社に賠償を命じた判決の趣旨は、その時点では確実とまではいえない程度の資料に基づいて八百長報道をしてしまったという点に違法性が認められたのであって、その判断は間違っていないというのが、私の個人的な理解です。

こんどは競馬予想詐欺グループが逮捕

またまた、インチキ会社の話を書こうとしています。

昨日の新聞各紙に「競馬予想詐欺」で大阪・兵庫で逮捕者が出たという記事がありました。

典型的な手口は、インターネットやスパムメールで、競馬の勝ち馬を教えるという広告をし、問合せをしてきた人には「八百長レースが仕組まれていて、勝ち馬が決まっている」と言い、情報料などの名目で多額の金銭をだまし取るというものです。

うちの事務所にもこの手の被害に遭った人からの相談が来るのですが、最初から詐欺をやろうという連中のことですから、訴えようにも、所在不明のことが多いです。

うちで相談を受けたのは、今回逮捕者が出た会社とは違うようですが、社名を「株式会社的中」と言います。ここ何回か取り上げた英語の名前ではないですが、それにしても直截的すぎて品のない名前です。

私はこの的中という会社のホームページに記載のある電話番号にかけてみました。
社員らしい人が出てきたので、「Aさん(依頼者の名前)の件で電話した」と告げると、その社員は「Aさんからは色々クレームを言われていて、業務にも支障が出てるんで、こちらとしても何らかの対処をさせてもらいます」と、開き直ったように言いました。

普段から、何か苦情が寄せられたときには、このように逆ギレ的なことを言って、煙に巻いているのだろうなと思いました。
私としてはもちろん、正々堂々と「対処」をしてもらうのは望むところなので、「何か主張があるのなら、代理人である私に言ってください」と伝えましたが、その後、何の連絡もありません。

後日、こちらから改めて電話しました。本社所在地のビル名はホームページでわかるのですが、ビルの何階かが不明で、訴状や郵便物が届かないためです。
以下、電話での会話です。

私「あなたがたの会社は○○ビルの何階、何号室にあるんですか」
社員「えーと…わかりません」
私「あなたは、いま自分がいる会社が何階にあるのか分からないのですか」
社員「…2階か、3階です」
私「2階か3階か分からないのですか」
社員「えーと、中2階みたいなところになってるんですよ」

後日、私は新宿にあるそのビルに行ってみましたが、もちろんビルに中2階などなく、どの階にもその会社はありませんでした。

その後のことは、現在進行中の事件ということで、これ以上に書くのは差し控えますが、詐欺グループというのはこのように、悪いことをして多少稼いだらまた姿をくらまして、ということを繰り返しています。まさに日陰に生きる蛇蠍のような連中です。

そして残念ながら、警察も忙しいので、殺人事件でも起きない限りはすぐには動いてくれず、この手の金銭的被害は滅多に警察沙汰にはなりません。弁護士に依頼するにも費用がかかります。当然のことですが、何より詐欺にあわないのが一番です。

確実な勝ち馬予想など、ちょっと考えてみればありえない話です。馬が八百長できるとは思えません。
ちょっとした儲け話に手を出してしまいたくなる気持ちはよくわかりますが、どうぞ健全な常識を働かせて、詐欺にかからないようにしてください。

投資詐欺や競馬予想詐欺が摘発された話を書きましたが、これらの連中は間違いなく、手を変えて次の詐欺の機会を伺っていますから。