コロナ特措法 もし閉店「指示」が出されていたら

以下の記事は令和5月1日に初めてアップロードしましたが、その後の状況を踏まえて追記し、またそのため長くなったので読みやすいように項目を分け、小タイトルを付しました(5月7日)。

● 休業の「要請」と「指示」の違い

大阪府内で、閉店の要請(コロナ特措法45条2項)を受けたパチンコ店がいずれも休業に応じたとのニュースがありました。この問題がいったんこれで収束すれば良いと思います。

いまから述べようとしているのは、もし、パチンコ店が休業に応じず、閉店の指示(45条3項)に至っていたとしたら、どうなっていたかという問題です。

45条3項の「指示」が、法的にどのような効力を持つかというと、指示を受けた側は、それに従う義務を負う、とされています。

では、パチンコ店が閉店の指示を受けて、閉店しなかったらどうなるかというと、すでに述べたとおり、強制的に閉店させることもできないし、罰則もない。

国が作成したガイドラインによると、2項の要請は「行政指導」だけど、3項の指示は「行政処分」なので、指示をするためには、その相手(パチンコ店主)に弁明の機会を与えないといけないとのことです(なお私は手元に国のガイドラインがなく、新聞報道に書かれていたことに基づいて書いています)。

行政指導は、字面のとおり、役所が私人に指導をして、相手の合意のもとに一定の行動を促すことです。行政処分は、役所が一方的に判断するもので、その結果として、ある私人の免許を剥奪したり、一定の行為を命じたりすることになる。

行政処分の具体例として分かりやすいのは、公安委員会が交通違反を繰り返した人の免許を取り消すとか、税務署が脱税をした人に対して重加算税を課すことなどです。免許取消しを受けてなお自動車を運転すれば無免許運転で処罰されるし、重加算税をかけられて支払わないと財産の差押えを受ける。

一方で、コロナ特措法45条3項の「指示」は、したがわなくても強制も罰則もないのだから、行政処分と言えるのか、個人的には疑問を感じます。もっとも、行政指導と行政処分は必ずしもハッキリ線引きできないことも少なくないですし、国が「行政処分だ」と言っている以上は、その前提で進めます。

行政処分は、上述のとおり、行政の一方的判断で、私人にあることを命じ、命じられた側はそれに従うべき義務を負います。

● 行政処分には「弁明の機会」が必要

そのため、手続きには慎重と適正を期するということで、行政手続法という法律が定められています。上記の「弁明の機会」は、この法律に定められています。

その13条1項によると、私人に不利益な処分をするにあたっては、その私人に対し、弁明の機会を与えるか、または、一定の場合には聴聞会を開く必要があります。この2つの違いは細かくなるので書きませんが、少なくとも、自分の弁明を聞いてもらえる機会はもらえると理解してください。

ただし、その次の13条2項によると、弁明の機会をとばしても良いとされている例外があり、その1号には「公益上、緊急に処分をする必要があるため、弁明の機会のための手続を取れないとき」(要約)と定められています。

ここ数日の新聞報道では、閉店の指示をするにあたっては、本来は弁明の機会を与える必要があるけど、吉村知事としては、緊急の場合であるのでその機会を与えない方針である模様だ、といったことが書かれていましたが、これは、上記の行政手続法13条のことを念頭に置いているわけです。

● 休業「指示」の後はどうなるか

最終的に、この段階でパチンコ店が閉店に応じたわけですが、もし閉店指示まで進んでいたらどうなったか。

一つには、パチンコ店が依然それを無視して、相変わらず多数のお客さん相手に商売していたことも考えられる。そうすると、それ以上何もできなかったはずです。もっとも、そこまでやると、パチンコ店全体のイメージダウンにもなるだろうし、それを気にしない客がいっそう殺到して、従業員の健康が危ぶまれたでしょう。

もう一つのやり方としては、行政処分を受けた側は、その処分を、行政不服審査や、行政訴訟といった手続で争うことができる。 その際には、そのパチンコ店が閉店するのがやむえない状況であったか、また、行政手続法に基づく聴聞の機会を与えずに閉店指示を出したことの適法性であったかなどが問われたでしょう。

指示がもし違法であったとすれば、違法な指示により閉店に至ったことによる損害について、大阪府に対する賠償を求めることになる。パチンコ店主側がそれなりに腹を決めてここまでやれば、コロナ特措法下で初の行政訴訟となり、司法により一定の法解釈が示され、今後のモデルケースとなるでしょう。

結果としてはそこまでに至ることなく、閉店に至りました。その理由は、吉村知事個人の覚悟と頑張りがあったことを認めるにやぶさかではありませんし、それを受けて府の職員もパチンコ店に対する説得を重ねたでしょう。パチンコ店側も最後の最後で理解を示した。

しかし、たびたびここで述べておりますように、今回の事態は、コロナ特措法の欠陥や中途半端さを露呈させました。

おそらく、今後は、強制力や罰則も含め、より強い規定にすべきだ、という議論が出てくると予想します。その際には、行政は緊急事態にどこまで個人の自由を制限できるのかという問題を、憲法レベルまでさかのぼって検討すべきだし、また、それとセットで強力な経済支援策も打ち出してほしいと思っています。

● 追記

5月1日に以上のことを書いてアップロードした約2時間後に、ヤフーニュースで、兵庫県で3か所のパチンコ店に対し閉店の「指示」が出されたと知りました。その後、千葉、神奈川、新潟、福岡などで指示が出たようです。その上でなお、営業を継続している店舗もあるようです。

パチンコ店側も、従業員の生活など、抱える問題は多々あるのでしょうけど、行政処分を受けた以上、正攻法としては、上記のとおり、行政不服審査などの方法で堂々とその言い分を主張されてはどうかと思います。