新年のとりとめのない雑感 3

前回の続きで、あくまで私個人の見解ながら、弁護士にとってタチの悪い、質の低い事件とはどういうものか、について。いろんな例を挙げることはできると思いますが、単純化のため、とりあえず4つの類型に分けます。

 

1つめの類型は、依頼の内容自体が違法なケースです。

例として、明らかに脅迫にあたるような文書を、弁護士の名前で紛争の相手方に送り付けてほしいという相談があります。この類型は論外であって、弁護士である以上、受けてはいけない事件です。

 

2つめの類型は、弁護士を「代書」としか考えていないようなケースです。依頼者が思うとおりの内容を一言一句、訴状や内容証明に書いてほしいというものです。

弁護士が文書を書く以上は、ふさわしい法律構成や表現を慎重に吟味するのですが、弁護士としてとうてい書けない表現(法的に不正確であるとか、品位に欠けるなど)ばかり書いてくれという人はたまにいます。

 

3つめの類型は、依頼者がおよそ現実的でない「戦略」を立てているケースです。

例としては、以前も触れましたが、金を貸した相手がお金を返してくれないとき、貸金返還の民事裁判を起こすのではなく、警察に詐欺で告訴してほしい、という相談がそれです。

警察に告訴する→警察が速やかに捜査に乗り出す→相手が驚いてすぐにお金を返してくる、という「戦略」なのですが、これがまず実現不可能であるのは、以前書いたとおりです(右の「2011年8月アーカイブ」にて「告訴を受理させる50の方法」を参照ください)。

 

4つめの類型は、法律問題でもないことについて、とにかく交渉してほしいというケースです。例としては、彼女と別れたいからキレイに別れられるよう交渉してほしい、というものです。

 

1の類型は、上記のとおり、間違っても受けてはいけない相談です。2から4の類型でも、一昔前の弁護士なら、そんなの弁護士に頼むことじゃない、と断ったでしょう。

ただ注意していただきたいのは、弁護士がこうしたケースを断るのは、多くの場合、弁護士としての矜持と良心に基づくものです。

もしこれが悪徳弁護士であれば、高い着手金だけ取っておいて、「あなたの言うとおりやってみましたがダメでした」「がんばって交渉しましたがダメでした」で終わりでしょう。

 

弁護士の数が増えて、アクセスがよくなることで、この手の相談はきっと今後増えると思います。私ならたぶん断りますが、これからどんどん弁護士の数が増えてくれば、食っていくためにはやむをえず、疑問を感じつつもこうした案件を受ける弁護士も増えていくでしょう。

すべての弁護士がそうだとは思えませんが、相当程度の数の弁護士において、その仕事は、法律の専門家ではなく、依頼者の手駒みたいになっていくことが予想されるのです。