ヘイトスピーチの違法性について

いわゆる「ヘイトスピーチ」に賠償を命じる判決が出ました。

昨日の日経夕刊からの引用(一部要約)。

「朝鮮学校の周辺で街宣活動し、ヘイトスピーチ(憎悪表現)と呼ばれる差別的な発言を繰り返して授業を妨害したとして、学校法人京都朝鮮学園が「在日特権を許さない市民の会」(在特会)などを訴えた訴訟の判決で、京都地裁は7日、学校の半径200メートルでの街宣禁止と約1200万円の賠償を命じた」

 

この学園は、学校法人として、おそらく京都府から補助金の給付を受けていると思います。

ここの教育実態は知りませんが、「日本に核ミサイルを撃ち込む」などと言っているような国家元首を崇拝させるような教育をしているのだとしたら、そんな学校に国民の税金を注ぎ込むことは、私もおかしいと思います。

しかし、そのことと、学校の周辺に街宣車をつけて「朝鮮人でていけ」などと大声で叫ぶことは別問題です。

こうした学校の存在が許せないのなら、補助金を出している京都府に対する監査請求や行政訴訟を起こしたり、法律・条例を改正してもらえるよう議会に陳情・請願したりするなど、平穏かつ合法的なやり方はいくらでもあるはずです。

大声で叫びたいのであれば、北朝鮮にでも乗り込んでやってくれればよいのです。

 

ここまでは、多くの方が、同様の感想を持っているものと想像します。

法律家として注目したいのは、(まだ判決文そのものを読んだわけではなく、新聞報道からの情報だけで書いているのですが)京都地裁が、在特会のやっていることが「人種差別撤廃条約に反するから違法だ」と言っている点です。

これは、ある意味では画期的な、またその反面大きな問題を含む判断のように思えます。

 

人種差別撤廃条約はネット検索で誰でも全文を読めますから、ぜひ一度見ていただきたいのですが、その4条には、たしかに、人種的憎悪に基づく思想の流布を禁じる条項があります。

条文自体は長いので要約しますと「締約国(条約を結んだ国のことで、日本も含まれる)は、人種差別を根絶することを目的として、人種的憎悪に基づく表現行為を行うことは犯罪なのだときちんと定める」とあります。

つまり、この条約は、ヘイトスピーチを行う人に対して、そういう発言は違法で犯罪だからやめなさいよ、と言っているのではなく、条約を結んだ国に対して、ヘイトスピーチを規制するような法律を整備しなさいよ、と言っているだけなのです。条約とは国家間で結ばれるものなので、それは当然のことであるといえます。

実際には、現時点でヘイトスピーチを具体的に規制する法律はないようなので、条約に照らして責められるべきなのは、国であって、ヘイトスピーチをした個人ではないのです。

 

もし条約に反すると直ちに個人に違法性が認められる、となると、かなり大変なことになります。

たとえばこの条約の第5条の()には、ホテルや飲食店などを利用する権利の平等、というものが定められているので、銀座やら祇園やら北新地にはザラにある会員制のバーやクラブというものは全部違法で、入店を断られた客は店から賠償金を取れる、ということになりかねない。

もちろん、在特会のやったヘイトスピーチは、民法の不法行為や、刑法の威力業務妨害罪に該当するので、結論として違法であるのは私も異論ありません。

ただ、その違法性を根拠づけるために国際条約まで持ち出す必要が本当にあったのかどうか、そこに疑問を感じるところです。

また後日、判決文にあたってみて思うところがあれば、書き足します。