カンニング行為は偽計業務妨害罪にあたるか

1週間少し、更新が空いてしまいましたが、今週、注目を集めたのは、大学入試でのカンニング事件でしょうか。19歳の予備校生が「偽計業務妨害罪」で逮捕されるという事態にまで発展しましたが、これについて触れます。

まず、19歳の未成年でも逮捕されるのかというと、これはありえます。
少年法は、未成年者(20歳未満)は公開の刑事法廷で裁くのでなく、原則、家庭裁判所で非公開の少年審判で扱う、としているのであって、審判に至るまでの取調べの段階では警察が逮捕することも可能です。

では、カンニングが「偽計業務妨害罪」という犯罪にあたるのか。

偽計業務妨害罪(刑法233条、3年以下の懲役または50万円以下の罰金)というのは、ここでも何度か触れましたが、字のとおり、偽りの計りごとを用いて人の業務を妨害することです。

典型的には、中華料理屋に他人の名前をかたって「ラーメン30杯」などとウソの出前注文をするのがこれにあたります。
今回のケースで言えば、きちんと受験しているふりをしてカンニングし、京都大学に真相解明のため多大な手間をかけさせた、という逮捕容疑のようです。

私自身は、これが偽計業務妨害にあたるということに、やや疑問を持っています。
もちろんカンニング行為は許されるものでないとしても、犯罪として逮捕し処罰するからには、刑法の条文をあてはめて良いか否か、厳密に解釈しないといけない。

上記の中華料理屋の例でいえば、偽計(ウソの注文)と業務妨害(ラーメン30杯を頼んでもない家に出前させられた)はダイレクトに結びついています。

しかし、今回のケースでは、偽計(カンニング)が行なわれていた時点では、京大側はそれに気づかず、当日の試験は滞りなく終わったのです。

それが、後からインターネットがきっかけで発覚し、大学側の監督体制を問う声が出て、マスコミも騒ぎ出し、大学当局のメンツの問題もあり、犯人探しのため手間がかかったという「業務妨害」が生じた。
偽計と業務妨害の間にいろんな要素が混入していて、ダイレクトの結びつきはないように思えます。

とはいえ、これがもし裁判にかかったら、裁判所は偽計業務妨害罪の成立を認めるでしょう。最高裁は古くから、「業務を妨害するに足る行為」が行なわれさえすれば、その結果ただちに業務妨害結果が発生しなくても偽計業務妨害罪の成立を認めているからです。

インターネットを利用したカンニング行為などは、大学側として後から真相解明に乗り出さざるをえなくなるのは明らかであって、業務を妨害するに足る行為だ、という理屈になると思います。

偽計業務妨害罪の解釈論について長々と述べてしまいましたが、この事件について思うところは、次回あたりに書きたいと思います。