DNA鑑定と父子の関係 2(完)

前回の続き。

自分の子供だと思っていたら、DNA鑑定の結果、実の子である確率が0%だと判明したら、親は法的には何ができるのか。説明の便宜上、引き続き、大沢樹生と喜多嶋舞、その息子を例にとって進めます。

考えられるのは、前回も少し書きましたが、大沢樹生が親子関係不存在の確認を求めて訴えることです。相手は息子で、未成年ですから親権者も相手にすることになります。今朝みた「おはよう朝日です」の芸能コーナーでは、今の親権者は喜多嶋舞の母のようなので、この人が相手となるわけです。

 

従来、親子関係不存在確認の訴えは、妻が子を出生したが、夫は戦争や海外赴任で全く性交渉がなかったような場合などに起こされてきました。科学の発達により、今回みたいに、DNA鑑定というものが、この訴えのきっかけになることが増えていくのかも知れません。

手続きとしては、まずは家庭裁判所で調停が開かれ、話合いの場が持たれますが、それで収まらなければ判決が下されることになります。

大沢樹生がもしこの訴えを起こした場合、DNA鑑定という、科学的にもおそらく承認されている方法で親子関係の存在確率は0%だと言われたのですから、訴えを認めて良さそうにも思います。

これが認められると、大沢樹生と息子の親子関係は、法律上、戸籍上も切断され、子供は親権者の戸籍に入ることになります。

 

ただ、一般論として、DNA鑑定が出たから親子関係不存在を直ちに認めてよいかというと、法律実務家(裁判官や私たち弁護士)と学者の中には、慎重論を持つ人も多いようです。

今回のケースは、大沢樹生は騙されていたわけであり、翻弄される子供もかわいそうだけど、親子関係の不存在を認めてやるべきだ、と感じる人が多いのではないかと思われます。

しかし、親子関係不存在の訴えは、こういったケースばかりではありません。

 

適切な例が思い浮かばないので池波正太郎の「真田太平記」を挙げてみますが、真田家の忍者の棟梁・壷谷又五郎は、ある女性と道ならぬ恋に落ちて、子供(佐平次)ができました。又五郎は、佐平次が闇の世界に生きる忍者として育つのを嫌い、真田家の侍・向井家に引き取ってもらいます。

その後、佐平次は向井家の侍として真田家に仕え、一方で又五郎は徳川家の忍者との暗闘の末、佐平次に自分が親であると告げないまま、討死を遂げます(うろ覚えですがだいたいそんな話です)。

佐平次は向井家の子として育ち、佐平次を引き取った侍も、実の父ではありませんが、佐平次に愛情を込めて育てたはずです。

そういう状況で、この親子に全く関係のない第三者がしゃしゃり出てきて、「佐平次は向井家の子供じゃないぞ、壷谷又五郎っていう後ろ暗い忍者の子供だ、何だったらDNA鑑定をして、佐平次を向井家から追い出してしまえ!」と訴えてきたとしたら、「科学的には親子じゃないから」と認めてしまってよいかというと、疑問を感じる方も多いでしょう。

 

そういうわけで、DNA鑑定を理由に親子関係不存在確認を認めて良いか否かについては議論があるところなのですが、DNAだけでは測れない親子の絆も世の中には存在しうる、ということだけ指摘して、この程度にとどめます。