「入試中止」のその先は

もう少しだけ、前回の話の続きを書きます。

大阪市教育委員会が、桜宮高校体育科の入試中止を決めました。とはいえ、普通科の入試を体育科の科目でやるようですから、橋下市長は主張を通して名を取り、教育委員会は実質上は体育科を存続できて実を取ったというところでしょうか。

 

今回明らかになったのは、教育委員会の中立性といっても、市長や知事が予算を使わせないとチラつかせれば、独断が通るということです。

これが先例となると、何か事件が起こるたびに、その責任の所在をきちっと検証することなく、唐突に市の制度が変えられ、無関係の市民に不測の支障が生じることも考えられるわけです。

市の行政の運営としてはずいぶん不安定になってしまうという懸念を持ちますが、これ以上の話は政治の領域かと思いますので、この程度にします。

 

ただ、橋下市長が「入試中止」とブチあげたせいで、そこばかりが注目されるようになってしまいましたが、生徒が自殺していることの民事責任、刑事責任については、これから追及されていくことですので、この問題についての、教師、学校、市の対応を、今後もよく注意して見ていく必要があると思います。

 

これは前の話の繰り返しになりますが、橋下市長は100%行政の責任と発言しました。では今後、生徒の遺族が学校や市に賠償を求める裁判を起こした場合に、市側の弁護士は責任の所在を争わず賠償に応じるのか(それはそれで問題なのも、前に述べたとおり)。

また、行政のトップであり、体罰容認論者であった橋下市長は、何らかの責任を取るのか(取らないと思いますけど)。

そして、教師は刑事裁判にかけられるのか。何罪に問われ、生徒が自殺したという事実は、そのときどう斟酌されるのか。

これらはすべて、これから時間をかけて検討されていく問題です。

 

そして、体罰を行ない生徒を死に至らしめた教師は、これまでどのように刑事責任を問われてきたか、ということで、実際の裁判例を参照いただければと思うのですが、今回はその前振りだけで、あとは次回に続きます。

市長は入試を中止できるのか

前回の続き。

大阪市の橋下市長が、体罰問題の発覚した市立桜宮高校の体育科の試験を中止すべきだと言っているとか。「問題を黙認してきた過去の連続性を断ち切るため」だそうです。教育委員会との議論の中では「廃校もありうる」とも述べたそうです(なお、橋下市長の発言は16日の産経朝刊に基づいています)。

関係のない受験予定者から見れば、全くのとばっちりで迷惑な話としか思えないのですが、私もいちおう弁護士なので、「法的根拠」ということが気になって少しだけ調べてみました。

 

学校教育のことは、学校教育法にだいたい定めてあります。

その中で、学校教育法施行規則の(「施行規則」って何かというと、詳細は省きますが、法律のさらに細かい規則を定めたものです)90条5項によると、公立高校の学力検査は、都道府県・市町村の教育委員会が行なう、とあります。つまり桜宮高校の入試は大阪市の教育委員会が行なうものです。橋下市長にそれを「やめろ」という法的な権限はない。

だから橋下市長が言っているのは、あくまで「教育委員会に対してやめるよう申し入れた」というだけに留まります。

 

では、橋下市長は桜宮高校を「廃校」にできるのか。

これもノーです。学校教育法4条2号で、市町村立の高等学校を設置したり廃止したりするには、都道府県の教育委員会の認可が必要とあります。つまり決めるのは大阪府教育委員会です。

(ついでに、同じ4条の1号で、大学の設置は文部科学大臣の認可が必要とあります。田中真紀子が先日、私立大学の設置を認可しないと言った根拠がこの条文です)

 

このように、判断するのは教育委員会なのです。橋下市長は得意のやり方で教育委員会に圧力をかけていくのでしょうけど、教育委員会としては受験予定の子供たちのためにも、断固入試を行なうべきです。教師の入れ替えや廃校など論外であると考えます。

 

法律論は以上です。

橋下市長はまた、「学校に100パーセント問題があり、入試を続けるべきではない」とも言ったそうです。しかし、学校(または行政)に100パーセント問題があるのかどうかは、前回述べたとおり、今後きちっと検証されるべき問題です。

また、学校に何らかの問題があり、そのゆえに生徒が自殺したという事実があったとして、「入試を続けるべきでない」という結論に果たして結びつきうるのか。これから受験しようとしている人たちは、この事件と全く無関係であるのに、受験直前に多大の支障と混乱を生じさせることが正当化できるとは思えません。

このへんの話について、次回、もう少しだけ続く予定。