ある消費者金融との会話より 2

ブログ記事を書き始めると、いろいろ思い出すものでして、前回の話にもう少し付け加えます。
前回の話は、まとめてしまうと、消費者金融は利用者の無知につけこんで債権回収しようとする、というものでした。もちろん彼らも仕事ですから、それを批判するつもりはありません。
もっとも、中には、そういう債権を譲り受けて回収を図る業者もいます。

例として、Aさんがアムコという消費者金融から100万円借りたとして、アムコが取立てを忘れて5年経ち、時効になったとする。アムコは無理な債権回収をあきらめる。債権(100万円を返してもらう権利)は商品と同様に、他人に売ることができるので、デストロンという債権回収業者にこれを10万円で叩き売る。

そして、デストロンはAさんに「100万円返せ」と催促したり、裁判を起こしたりする(実際は利息がつくからもっと多額になりますが省略)。
このときAさんが弁護士に頼めば、前回同様、「時効だから払わない」と言って終わりです。
でも中には、デストロンの厳しい催促や、裁判沙汰になったことに恐れをなしてしまい、「払います」と言ってしまう人もいる。

デストロンは、100万円の債権を10万円で買って、100万円を回収できれば、90万円の儲けになります。一方、知識のある人が「時効だ」と言ってきたら回収できませんが、元手が安いのでそう痛手はない。
アムコはアムコで、取立てをしたところで時効と言われれば全く回収できないところを、10万円もらえるわけだから、メリットがある。
そういうことで、時効にかかった債権を安く買い取って請求をかける業者が実際にいます。
(なお、アムコもデストロンも当然ながら、架空の業者名です)

このデストロンがAさんに対し、100万円返せと裁判を起こしたとき、裁判官はどうするかというと、「時効だから払わなくていいでしょ」とは言ってくれない。
時効というのは、自分でそれを主張しなければ、裁判上でも時効にかかったものとして扱ってくれないからです。「借りておいて時効で踏み倒す」というのは倫理的には問題なしとしないので、民法は、それを自ら主張しなければ時効と扱わない、と定めています。
裁判官は中立の建前なので、Aさんが時効と主張しなければ、その債権は残っているものとして、デストロン勝訴の判決を出さないといけないのです。

この手の、Aさんの立場にある人からの相談は、私のところにもよくあるので、世の中全体ではかなりの件数、こういう訴訟が起こされているのだと想像します。そして、知識がないために消滅したはずの債務を払わされている人も多いのでしょう。

次回、もう少しこの手の話が続く予定です。

ある消費者金融との会話より

昨年11月以来、しばらくぶりの更新です。何度も言っていますが、さぼりがちですみません。
最近、複数の依頼者に「ブログ見てますよ」と言われたので、少しずつでも書いていこうと思っています。ちなみに、「見てますよ」と言ってくださる方の多くは、それなりに調べて書いているつもりの法律問題ネタではなく、「ハワイ旅行記」読みました!とおっしゃいます。
ですので今回も、多少雑感的に書きます。

消費者金融からお金を借りすぎて、これを整理したい、という依頼はよくありますが、なかには、借りてからずいぶん期間が経っているものもあります。
先日、返済期限が10年前に過ぎている借金を、今になって「返せ」という催促状が来たとの相談がありました。消費者金融からの借入れは、請求もされず返済もせず、5年を経過すると、商法上、時効で消滅します。
「借りておいて何も言われなかったからって時効で踏み倒すってどうなの?」と感じる向きもあるかも知れませんが、弁護士としては立場上、依頼者の代理人として、「消滅時効にかかっているから払わない」という対応を取ることになります。

そういう文書を、とある消費者金融に送ると、担当者が私に電話してきて「その方は、長年海外に行っていたから、時効は停止していますよ」と言ってきました。すべては書きませんが、借りたまま一切返しもせず国内や海外を逃げ回っていた、というような話を、延々まくしたててきました。
私はその話を一通り聞いたあと、「それで、海外に在住していると民事上の時効が停止するという法的根拠を教えていただけますか。恥ずかしながら、不勉強なものでして」と言うと、その担当者はとたんにアヤフヤになりました。

たまに勘違いしている人がいますが、海外にいると時効が停止するというのは、刑事裁判のほうの話です(刑事訴訟法255条)。そういうドラマや実際の事件があったりするから、混同されているかも知れませんが、お金の貸し借りという民事上のことは、海外に行っても時効が停止するわけではありません。
もちろん、その消費者金融の担当者は、そのことを重々承知していながら言っているはずですが、素人相手ならともかく、弁護士によくもそんなことをヌケヌケと言ったものです。CMなんかも流してて、それなりに名の通った消費者金融なのですが。
ここに限らず、消費者金融は、そういう知識を持たない人から、このやり方で時効にかかった債権の回収を図っているのだと思います。

生きていく上で正しい知識を持っておくことは大切だなと、この仕事をしているとよく思います。
そして、一般論として、よく分からない話をまくしたててくる人に対しては、議論に乗らずに聞き流した上で、最後にアホな振りして「すみませんがその根拠を教えてもらえますか」と言い放てばよいのだと思います。私もよくやってます。