幼稚園民営化、二度めの否決で明らかになったこと

大阪市の公立幼稚園の民営化案が、昨日5月27日の大阪市会・本会議で否決されました。

昨年、11月に同じ案が否決されましたが(当時のブログ記事、今回、橋下市長がまた同じ提案をしてきたわけです。

公立幼稚園を廃園または民営化することについての疑問は、たびたびここでも述べてきたとおりですし、昨年の否決に至る経緯や世論の動向は上記記事に述べました。

同じ話の繰返しは避けて、以下の2点を付け加えます。

 

1つは、今年3月の「出直し市長選挙」が全くの無駄だったのが明らかになったことです。

橋下市長は、選挙に6億円以上かかるとしても、大阪都構想を進めることで、何百億もの収支改善が得られると述べました。しかし、市長の再選を得ながらも、松井府知事は「来年の大阪都実現は無理」と言いだす始末です。

橋下市長自身、その政策実現に向けて、各政党を説得したりして調整能力を発揮するのかと思うと、全くそうではなく、他党(特に公明党)批判を繰り返してきました。

その結果が、幼稚園民営化条例案をはじめ、水道局民営化などの予算案の否決です。市長の調整能力のなさゆえの自滅であるとしか思えません。

大阪都どころか、市長「肝煎り」の政策が何も実現していないのだから、あの市長選挙は壮大な無駄使いだったことになります。

 

もう1つは、大阪の市議会は、意外にも(というと怒られるかも知れませんが)健全に機能していたということです。

橋下市長と維新の会の市議(また彼らの支持者も)から言わせれば、野党が反対ばかりしているから何も進まない、議会の機能不全だ、ということになるかも知れませんが、これはとんでもない暴論です。

公立幼稚園民営化について言えば、その存続を求める多くの保護者(私も含めて)が、繰り返し議会に陳情に行くなどしました。これを「住民エゴ」というのは勝手です。現にそうしたニーズが、市会議員(つまり大阪市民の代表者)に無視できないほどに存在し、だから市議会の多数派は市長の提案を否決したのです。これを「民意」と言います。

私も、この幼稚園民営化問題に関しては、保護者有志の集まり、町内会、市会議員との面談など、いろんな場に実際に接することで、世論や民意というのはこういうふうに形成されていくのだなという、その一端を見ました。

「市政を改革する」「行政の無駄を排する」「既得権を潰す」などという、一見カッコいい(でも中身がない)言葉を吐くだけでは、一時の人気は得ても、結局は何もできないことがわかりました。

そして、大阪の市議会は今回、実際に大阪市に暮らす多くの人々の住民ニーズをくんでくれたのだと思います。

 

書きたいことは尽きませんがこの辺で。

市長のことですから、三度目の「幼稚園民営化」を議会に諮るかも知れませんが、そのときはまた批判記事を書きます。

公募校長と幼稚園民営化のゴタゴタなど

大阪市西淀川区で、民間から公募の小学校長が、校内のPTA会費を持ち出していたとか、学校をほとんど欠勤しているとかの問題で、更迭(つまりクビ)になるそうです。これ、お金の持ち出しが事実だとすると、窃盗罪や横領罪にあたる刑事事件です。

公募校長といえば、港区の小学校で「自分のスキルを活かせない」と言って3か月で辞めた人がいたし、生野区では教頭先生を土下座させた校長がいたとか。

 

橋下市長は、公募制度自体に問題はなく、成果はあがっていると強弁しているようです。

大阪市の職員が問題を起こした際には、組織や制度自体に問題があるかのように苛烈な処分を行いつつ、一方で、公募の区長や校長が凄まじい高確率で不祥事を起こしているのを問題なしとするのですから、呆れるほかありません。

 

さて、来週は、大阪市会で、大阪市の幼稚園民営化の是非が採決されるようです。

ここでも書いたと思いますが、昨年11月の議会で、19の幼稚園のうち、5園が廃園、またはこども園へ移行することが可決され、残り14園については民営化が否決されました。この否決された14園について、あれから半年しか経っていないのに、橋下市長はまた民営化を諮るのです。

 

否決されたばかりなのに、同じ議案を出して可決されるはずがないじゃないか、と私はタカをくくっていたのですが、ウワサでは、どうもそうではないようです。

前回は、上記14園の民営化には維新の会以外は反対しましたが、今回は、公明党の議員の方々が、維新の会に歩み寄って、今回は一部だけ賛成に回るというウワサです。しかも、上記14園のうち、公明党の市会議員がいない西区、天王寺区、中央区の幼稚園だけが、民営化されるというウワサです。

これはもちろん、根も葉もないウワサにすぎず、まさかそんな、あからさまな談合で公立幼稚園が潰されるとは思っていません。

公募校長の不祥事が連日起こっている中で、幼稚園の運営全体をいきなり公募に委ねるなどという議案が通るとは思いません。

 

なんだかゴタゴタした話ですが、大阪市では今、子を持つ親がこういったつまらない話で疑心暗鬼になっているという現状の一端を紹介する次第です。

PC遠隔操作事件に感じたこと

前回書いたパソコン遠隔操作事件で、片山被告人が、22日の法廷で、一連の事件はすべて自分がやったと自白したそうです。これまで無罪を争ってきた片山被告人の弁護人(佐藤弁護士)も、裏切られた思いでいるのかも知れません。

 

この顛末に関して、我々弁護士、それぞれ思うところもあるのですが、おおよその思うところは一致していると思います。

それは、ウソをつく被告人でも弁護する必要があるということです。その理由はいろいろありますが、最大の理由は、日本国憲法に、被告人には弁護士をつけなければならないと書かれていることです。

私も、同じ立場にあれば、憲法上の職責として、佐藤弁護士と同じような弁護方針を取ったと思います。

 

付け加えて言えば、たいていの弁護士は、民事事件の依頼者や、刑事事件の容疑者・被告人に、ウソをつかれたことがあります。だから今回の事件を見て、多くの弁護士は、程度の差はあれ、同じような経験をしたことを思い出したことでしょう。

私にも、詳細は書きませんが、そういう経験があります。私自身は、事件の当事者というのは、自分に不利なこと、恥ずかしいことは隠したがるのが人情なので、ウソをつくのはある程度は仕方がないことと思っています。

だから、もし依頼者がウソをついていることが判明したとしても、私はその人を非難やら叱責することはありません。ただ、最初から本当のことを言っててくれれば、もっと別の弁護のやりようはあったのにな、とは毎回思います。

 

さて、多くの弁護士が、この一件の顛末から感じていることがもう一つあります。

それは、この事件に関しては、警察・検察の捜査が自白に頼り切りであったのがおそろしいということです。

片山被告人が逮捕されるまでの間、パソコンを遠隔操作された無実の人が4人も逮捕され、そのうち2人は「自白」したことです。警察が無実の人に「私がやりました」と言わせたのだから、相当に苛烈な取調べをしているはずです。

一方で、片山被告人は、「自作自演」で自滅するまで、「私は無罪」と言い続け、保釈までされていました。今回の自滅から自白に至る流れがなければ、裁判は検察側に不利な状況だったと、多くの法曹関係者は見ていたようです。

 

証拠で事実を明らかにするのでなく、容疑者や被告人の自白に頼るのは、捜査手法としては前時代的なものです。

今回は、私も仕組みがよくわかりませんがパソコンを遠隔操作したという事件でした。これから時代とともにいろんな新技術が現れてきて、警察も裁判所もよく理解しえないような複雑怪奇な事件も起きるかも知れません。

そんなとき警察が、証拠で犯人を突き止めるのは困難だから怪しいヤツに自白させてしまえ、という意識で捜査にあたってしまうと、またきっと同じようなことが起きます。多くの弁護士はそれを心配しています。

 

(注:片山被告人は現在まだ裁判中で、有罪が確定したわけではありませんが、その自白が真実であるという前提で書きました。)

PC遠隔操作事件の急展開について

更新が1か月以上あいてしまいました。

最近、たまに書いても幼稚園民営化の話ばかりと、古くからの読者に揶揄されたこともあり、違うことを書きます(とはいえ、本日、大阪の市議会で民営化の賛否が決議されるようなので、後日また触れる予定です)。

 

パソコン遠隔操作事件が急な展開を見せています。今後、ASKA逮捕のニュースに代わる勢いでさかんに報道されるのではないかと思います。

他人のパソコンを遠隔操作してインターネットに脅迫を書き込んだとして、片山被告人が裁判を受けています。起訴された罪名は威力業務妨害で、「コミケで大量殺人を行なう」などの書込みによって、コミケ(私も詳しくないのですが「コミックマーケット」の略で合ってますか?)の業務を妨害したということです。

 

起訴後、弁護士が保釈の請求をしました。保釈とは、ここでも何度か書きましたが、捜査が終わって裁判を待つ身になった人(つまり被告人)は、一定の保証金(金額は事案の内容に応じ、裁判官と弁護士の交渉で決まる)を納めて、身柄を解放してもらう、という制度です。

東京地裁は保釈を却下しましたが、弁護士の抗告(異議申立て)を受けて、東京高裁は保釈を認めました。今年3月、片山被告人は1000万円の保釈金を納めて、出てきました。

その後、この事件の「真犯人」を名乗る人から報道機関や一部の弁護士にメールが届きましたが、実はこれが片山被告人のいわゆる「自作自演」であった疑いが出たのが昨日のことで、今日、片山被告人は弁護士に「自分が真犯人」だと認めたとこと。今後、保釈が取り消されて改めて身柄拘束されるようです。まさに急展開です。

 

法的なことに触れますと、刑事訴訟法の96条に、どういう場合に裁判所が保釈を取り消せるかが規定されています。被告人が逃亡するおそれのあるときや、証拠隠滅の疑いがあるときなどです。

片山被告人は、別に真犯人が存在するかのようなメールを出したという疑いで、ウソの証拠をでっちあげることも真実の発見を妨げるものであって隠滅の一種とされます。

 

また、保釈の取消しの際には、裁判所は保釈金の一部または全部を没取することができるので、片山被告人は1000万円を取り上げられることが予想されます。

なお、今朝みたテレビで、このことを解説するときに「没取」(ぼっしゅ)と言ってました。「没収」(ぼっしゅう)と言わないのは、没収とは、刑法上、有罪判決を受けた人から犯罪の関係物件(凶器など)を取り上げることを言うためです。被告人から保釈金を取り上げるのは場面が違うので、こっちを「没取」と言って区別しているのです(刑事訴訟法96条2項)。

警察や法律家でもない限りは、別に区別する必要はありませんが、テレビでボッシュ、ボッシュと言ってて気になられたら、そういうこととご理解ください。

さらにどうでも良い話を付け加えますと、ボッシュと口で言ってもボッシュウと紛らわしいので、警察関係者は「没取」をボッシュと言わず「ボットリ」と言っているそうです(田宮裕「刑事訴訟法」新版(有斐閣)p259)。

 

私は今、ネットニュースで見た程度のことしか知らないし、真相がどうであるかも知りませんので、事件についてあまり立ち入った考察はできません。また続報を踏まえて、近いうちに、思うところを書きたいと思います。