その5 勉強をやめたくなった方へ
毎年、多くの方々が志高く司法試験の勉強を始めます。予備校のクラスはどこでも、開講当初は受講生が大変多いです。でも、だんだんとやめていく人がいて、受講生の数も減っていくのが現実・・・。
以下は、司法試験をあきらめたくなった、とある受験生との対話です(於 早稲田セミナー京都校)。
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| 1.「普通の人」は受からない? |
司法試験をやめたくなった、と? 講義についていけないとか、内容がわからないとかそういう問題じゃなくて、そもそもやめちゃいたいってことですか。今の気持ちでこのまま勉強続けられるかわからない、そういうことですか。
うん、まあ、司法試験に限らず、目標を掲げて新しく勉強を始めたけど、途中でイヤになってしまって最後まで続けられないというのはよくあることですね。勉強を始めたころは、日々新しい知識に接して面白いけど、だんだんと内容が複雑かつ高度になっていって、覚えることばかり多くなって、ついていくのがしんどくなる。
司法試験も、「法律学」という学問を扱うわけですからね。1つの学問を、究めるとまでいかなくとも、社会的に有用な知識として使いこなせるくらいになろうと思ったら、やっぱり、それなりの量の知識を記憶することが必要だし、それなりにしんどい勉強が必要になってくる。「面白おかしく勉強したい」というだけでは、「ちょっとした物知り」で終わってしまう。「物知り」じゃなくって「法律家」になろうとする以上、しんどい勉強が避けられないのは事実ですね。
それから、すべての試験にいえることですが、試験勉強は「仕上げ」が大変です。試験当日の朝には、これまでやってきた全範囲すべて記憶して、どこを聞かれても即座に答えられる状態に持っていかないといけない。基礎講座の講義についてくるのはそんなに大変なことじゃないと思うけど、試験直前には基礎講座でやったことを全部覚えないといけなくて、それはかなり大変な作業です。普段からそこそこ勉強してるんだけど毎年受からないという人の多くは、そういう直前の詰めが弱い人なんだと思う。直前期のしんどさっていうのは、今年で絶対受かるんだ、という強い気持ちがないと乗り切れないでしょうね。
だから、今のままの中途半端な気持ちでは、当面は勉強を続けることができても、直前期のしんどさを乗り切るのは難しいかも知れませんね。
「司法試験には『普通の人』は受からない」って言われたと? うん、そういうこともたまに聞きますね。これにはいろんな含意があると思うんですね。まず、(1)司法試験には秀才・天才でないと受からないという、受かった人に対する賞賛の意味。それから、(2)司法試験に受かるようなヤツには変わり者が多いという、受かった人を茶化す意味。で、(3)俺は普通の人間だから司法試験は受からないんだという、受験生が司法試験をあきらめるときの言い訳としての意味など。
(1)(2)についてはあとで話すとして、今の君は(3)の意味でこの言葉を捉えているんでしょうね。あきらめの気持ちが生じかけている君には、まず僕の経験からお話しましょうか。
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| 2.やめたくなったら――私の経験から |
僕は、司法試験の受験生時代に、勉強をあきらめようと考えたことはないんです。ただその前に受験した、司法書士試験の時代には、一度だけ、あきらめたくなったときがありました。
司法書士試験の受験勉強をしていた大学4回生のころでしたけどね。僕は司法書士試験の受験時代は大半を独学で勉強していたのですが、そのせいもあって、自分のペースがつかめなくて、ある科目をやったら前の科目のことを忘れてしまって、何だかキリがないように思えてきたんです。やっぱり就職したほうがいいのかな、と思えてきたこともあって、勉強に集中できなくなって、いったん、勉強をやめてしまいました。
やめた直後は、やっぱり嬉しかったですね。朝起きて、今日は民法の本の何ページから何ページまで読まないと、とか考えなくていい。幸せに感じましたね・・・最初の3日間はね。でも、1週間、2週間と、何もやることがない日が続くというのは、苦痛なものです。大学の4回生だから大学の講義とかはほとんど入ってないし、就職活動しないとと思って企業セミナーなんかに参加しても何も興味を持てるものがない。自分はどうしたらいいんだろう、結局自分は何がしたいんだろうと悩みました。悩みながらも、何をするでもなく、2、3週間をぶらぶらと過ごしました。
で、悩んだ挙句、やっぱり、資格を取って独立したい、やっぱり司法書士の資格を取ろう、という結論に行き着きました。
なぜこの結論にいきついたか、ですか?・・・うん、それは今でも理屈では説明できないんです。悩んだ末の直感としかいいようがないんですね。僕はとにかく、その直感の信じるところに従って必死でやってみよう、もし司法書士の仕事が合ってなければそのときに軌道修正すればいい、と思いました。で、その信じるところに従って勉強を再開したわけです。
ちょっと話がそれるかも知れないけど、僕は司法書士の仕事をしばらくやってから、やはり弁護士に転向しようと考えるに至るわけですね。これも、転向すべきかどうか悩んだあげく、最後には直感で決めました。
ある物事について、どういう選択をすべきか、必死に悩んで、その挙句に、合理的な理由があるわけではないけど、突然ポッと直感的な答えが出てくる経験ってないですか?そういう直感というのは、信じていいと思うんです。
僕個人の経験でいうと、司法書士時代の知識や人脈が、今、弁護士の仕事をするにあたって非常に活かされています。ですから、あのとき司法書士試験を受けようと思った直感、そして弁護士に軌道修正しようとした直感というのは正しかったと思っていますよ。
僕の個人的な話はその程度にして、やめようかどうか迷っているという君の相談に対する結論ですが・・・司法試験をあきらめようかどうか迷っている方、やめるきっかけを探している方は、一度スッパリとやめちゃえばいいんです。自分に、まだやりたいっていう気持ちが残っているのであれば、またすぐにやる気が湧いてくるでしょう。そうでなくて、いつまでたっても勉強を再開する気が起きてこないということなら、そのままやめたほうがいいでしょうね。厳しい言い方かも知れないけど、そのほうが自分のためにも、周囲の人々のためにもなると思う。やる気は起こらないけど、とりあえず続けてみようというだけでは、よっぽど頭のデキのよい人は別にして、合格まで到達するのはおそらくムリでしょうからね。
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| 3.自分の気持ちを確かめるために |
今の自分がわからない、ということですか? 自分は今、どれだけ強い気持ちを持って勉強をしているのか、そして今後もどれだけ強い気持ちで勉強を続けられるかがわからない、ということですね。
それに対する回答は簡単です。弁護士(または裁判官・検察官)になりたい、という気持ちがどれだけ強いか、それだけです。目標が明確であれば、どんなに大変な勉強でも切り抜けられると思う。逆に、目標があいまいで、惰性で勉強やってるだけだと、ちょっとの勉強ですぐにイヤになりますからね。
自分がどれだけ弁護士になりたいという強い気持ちを持っているか、それを確かめる方法は、将来の自分の姿を想像してみることです。将来の自分の姿を想像してみてください。弁護士になってる自分の姿がピンと来ない、ということであれば、やめたほうがいいかも知れません。弁護士になって活躍してる自分の姿がいきいきと浮かびあがってくるくらいでなければ、勉強を続けていくことは難しいかも知れません。
さらに、弁護士になった自分の姿を思い浮かべて、本当にああなりたい、ノドから手が出るくらいああなりたい、という気持ちになるか。脈拍が高まって、ノドがかわいて、手に汗がにじむような、それくらいの強烈な欲求が起こってくるか。それを確かめてみてください。それくらいの強烈な気持ちで勉強している方であれば、まず間違いなく合格するでしょう。僕も受験時代は、まさにそんな気持ちで勉強していました。
さて、蛇足かも知れませんが、「司法試験には『普通の人』は受からない」のか、という問いについて、僕なりの回答をお話しておきます。
(1)司法試験には天才・秀才でないと受からないか、という点。これはノーです。天才・秀才の定義にもよりますが、天才・秀才でない人でも、本当に強い気持ちがあれば努力によって秀才になれるし、才能がなくても努力でカバーできるでしょう。ノーベル賞を取るとかいう大それたことではなく、毎年1000人以上が受かる試験ですからね。特別の才能がないと受からない、というものではないと思います。
(2)司法試験に受かるようなヤツには変わり者が多いか、という点。「変わり者」というと聞こえが悪いですが、たしかに少しはそういうところもあるかも知れません。強い気持ちを持って、自分の信じた道に従って突き進むことのできる人、周囲からの遊びの誘いも一時期は断って、勉強を続けられる人、そういう努力のできる人でないと、合格は難しいかも知れません。そういう人は、周囲から見ると「変わり者」なのかも知れませんが、周囲の目は気にせず、自分の目標を貫くんだという信念でがんばるしかないですね。目標達成のためには、人生の中でそういう時期も必要だと思います。
君が今日、何のために相談に来たのか、勉強を再開するために奮起させてもらおうとして来たのか、それとも、すでにやめる気持ちが固まってて、背中を押してもらいに来たのか、そこまで僕にはわかりません。それは君の気持ちの問題だから、君が決めることです。まあ、今日は天気がいいようだから、今日の講義の復習は明日にまわして、鴨川べりにでも腰掛けてゆっくり考えてみたらどうですか。あ、四条のあたりはカップルが多くていっそう気が滅入るかも知れないから、五条のほうがいいと思うよ。 |
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