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連載小説「373−2S」

連載小説 [373-2S]
■ 最終話【再会のマルガリータ】その3
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「被告人を懲役7年に処するを相当と思料します」

検察官の論告求刑が行なわれ、傷害致死事件の被告人の公判が終わった。
先日、「保釈」の請求が却下されたあと、僕は「勾留執行停止」の申入れをした。
親族の葬儀などの際に例外的に勾留を一時解いてくれる手続だが、「愛人の遺骨を供養したい」といった理由では、これも認められず、最後までこの被告人は勾留された状態のまま、今日を迎えた。
公判が終わって、法廷で手錠・腰縄をつけられている被告人の肩を叩いた。
「じゃ、判決言渡しのときに会いましょう」
「ありがとうございました」
とそれだけ言って、被告人は法廷の裏口から連行されていった。

結局、僕は彼に何もしてあげられなかったな、そう思いながら法廷を出て、裁判所の廊下を歩いた。
すれ違う同業者たちは、もうすぐ行なわれる弁護士会会長選挙の話題をしきりに話していたが、僕には興味がない。
事務所に戻ると、相談に来た客がすでに待っていた。
先日の医療過誤事件での勝訴判決が新聞に載って、そのせいか、相談客が増えた気がする。


たくさんの相談を捌いた夕暮れ時、今日も僕は西心斎橋の路地を歩いていた。
弁護士になりたてのころ、仕事を終えるといつも、何かから逃げるようにこの道を北へ歩いていた。
西心斎橋のビルの上でひっそりと営業している「パインバー」にたどり着く。そしてようやく、何かから逃げおおせた気がする。
バーにしては奥行きの広がった空間の向こうで、飄々としたマスターの松浪氏が、緩やかな時間を醸し出していた。

今夜、カウンターには派手な髪型をした女性が1人で座り、こちらに背を向けている。
「あら、先生!」
その女性が声をあげる。東心斎橋のラウンジ「彩文」のママだった。
「よかったら、隣へ座ってくださいよ、先生」
夜の仕事の前に、この店に和みに来たのだろう。ラウンジの客である僕に会ってしまって、ママの気持ちは「仕事モード」になったはずだ。
少しだけ申し訳なく思いながら、そこから2つ空けた席に座る。

「マルガリータをお願いします」
「それ、先生の最近の好みですか。ミカちゃんがうちにいたころは、よく一緒にロブロイを飲んではりましたよねえ。彼女があがってしまってから、先生もすっかりご無沙汰になってしまって」
「いや、そういうわけじゃないんですけど・・」


ママの話によると、ラウンジ「彩文」に勤めていたミカは、鳥取の実家に帰ったあと、昼は家業を手伝いながら、夜は地元のスナックで勤務しているらしい。
「いつか大阪で店を持ちたい、それでいい男を捕まえたいって、こないだ電話で話したときに言ってたんですよ」


ラスティ・ネイルが好きだった公務員のユキからは、最近、久しぶりに電話があった。
一度別れた彼とは再会を果たし、もうすぐ結婚するらしい。


キャリアを求める人、安定を求める人、目標は何であれ、みんなこうして自分の目標に向かって進んで行く。
自分は今、どこかへ進んでいけているんだろうか。それとも、止まっているんだろうか。
会長選挙が迫っていることを思い出した。同業者のうち、ある人は名誉職を目指す。また別の人は何らかの分野で名をあげることを目論む。
自分は、そのどちらにも向かっていないのだろう。ただただ毎日の仕事をこなしてきた。


スリー・マティーニの女・・先日ミナミで久々に出会った、名前も知らないマティーニ好きの女性を思い出す。かつて、人生に意味なんてなくても、毎日を楽しく生きていくのだと快活に言い切った彼女。彼女とも、もう少し話をしてみたい気がする。


「ママにとって、人生の目標って何ですか」
僕は唐突に聞いていた。僕の横で、ママが驚いた顔をしていた。
マスターが、哲学的なこと考えてるんやねえ、とポツリと言った。
「私の目標は、こうやって毎日お酒を楽しく飲んでることですわぁ」

「うん、そやねぇ・・」
少し間をおいてから、ママとマスターが互いに言った。


パインバーを出て少し歩くとすぐ御堂筋に至る。夜8時、人も車も、忙しく行き交っている。
――今の自分は、さきのマスターやママほどには達観はできないのだろうな。
何かが自分の中でくすぶっているような気がして、人ごみのなかを足早に歩いている。
つづく...

カクテル一口メモ
マルガリータ(3):
 自宅で簡単に作る方法としては、テキーラにホワイトキュラソー(「コアントロー」がメジャーです)を混ぜる。塩とか、ライムジュースとかは省略。
 細かいレシピにこだわらなければ、コアントローのボトルがあると、テキーラとあわせて「マルガリータ」、ジンとあわせて「ホワイトレディ」、ブランデーなら「サイドカー」、ラムなら「XYZ」、ウォッカなら「カミカゼ」が作れます。こういう飲み比べも楽しいかと。
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to be continued





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